良いチャンスを逃さないために、あきらめない事。
S氏は、以前は地元の水道業者に勤めていた。そこでの業務に熱心に取り組みながらおよそ1年半を過ごした後、足場の組み立てをおこなっている会社に転職。17歳にしてとび職の世界へ飛び込んだのだった。
旧友との再会から 日比建設へ
とび職として足場の組み立てに汗を流す日々を送っていた白戸。そうして数年が経った頃、出会ったのが日比竜也であった。
同じ年齢で、保育園に通っていたときから付き合いがあったものの、小学校の卒業と同時に日比が引っ越してしまう。それから顔を合わせることはなかったふたりが、19歳にして偶然再会。その後、S氏がとび職をしていることを知った日比が、日比建設に誘ったのだという。
「彼のおかげでここにいますね。この会社に入って良かったと思っています」。
人とのつながりに導かれ、大きなやる気を胸に、新しいスタートを切ったのだった。
若くして職長に 忍耐を学ぶ
日比建設での業務に精を出して取り組んでいたS氏に、転機が訪れたのは24歳のとき。思いがけず職長を任されることになったのだ。
「まだ早いんじゃないかとも思ったのですが、『今が良い機会だ』という話を聞いて、引き受けました。しかし、不安はありましたね」。
当時は社員も少なく、現場を任せられる人材が不足していたために、まだ若かったS氏に声がかかったのだという。業務は初めてのものだらけで経験も浅い中、ときに従業員からの反発もあった。
それでも、めげずに一つひとつ取り組み、職長としての仕事を吸収していった。真摯に勉強に努めたことで、次第にゆとりを持って現場を仕切れるようになっていた。
そんなS氏にとって最も印象深かった仕事の一つが、31歳のときの八王子での案件。管理者とそりが合わず衝突することもしばしばあったが、その中で学んだのは、「耐えることの大切さ」であった。
「気持ちが抑えられず問題になってしまう場面もありましたが、円滑に作業を進めるためには耐えることも必要だと気づきました。そして、相手から不満が出ないように、とにかく丁寧な仕事をすることに徹底しました」。
職長として現場の進捗を第一に考え、ときに理不尽だと思えるようなことでもこらえた。それは、課せられた使命を果たそうという、確かな責任感があったからだ。
忘れ難い采配ミス 失敗を乗り越え
一方で大きな失敗も経験してきた。ある現場において、S氏の指示の下で高所から足場板を降ろす際のことである。上側にいた作業員がうっかり手を放してしまい、下で受け止める作業員に足場板がぶつかってしまうという事故が起こったのだ。幸い命に別状はなかったが、その作業員は全治半年の怪我を負った。
「僕の采配ミスでした。作業に慣れていなかった人員を配置してしまったのです。本当に申し訳なかったです」。
自身の担当する現場で、従業員に怪我をさせてしまったことに自責の念を感じた。それ以外にも、スタッフが怪我をするのを何度か経験してきたが、そのたびに力不足を感じ、とても落ち込むのだという。
日頃から事故を防ぐために何より心がけているのは、現場作業の綿密な調整だ。人員が適切に配置されているか、細心の注意を払っている。たとえ予定に狂いが生じそうな場合でも、決してスタッフに無理をさせない修正案を考える。
各々の担当に相応しい人材であるのかを、短い期間で見極めるのはとても難しい。それでもS氏は、これまでの失敗を糧に、安全のため業務とひたむきに向き合う。
会社のために 細やかな仕事を
現在では職長としての経験も長くなり、現場全体を広く見渡せるようになってきたと実感している。目指しているのは、会社の利益を上げられる仕事だ。
「言葉遣いや整理整頓に気をつけていれば、他の業者さんからの印象が良くなり、次の仕事も入ってきやすくなると思います。些細なことだとしても、見てくれている人はいるのです」。
最近では、現場で仲良くなった人と一緒に、休日にサッカーや登山を楽しむ機会もあるのだという。人一倍丁寧な作業を心がけ、周りとの和を大切にするS氏の、これからの活躍に期待したい。