鳶職歴35年の経営者が語る『鳶職やめとけ』という人の心理と実情

『鳶職人なんてやめとけ』

あなたにそうアドバイス(おそらく善意から)したその人は、果たして鳶職人の実情をどれだけ知っているのでしょうか?

その言葉は、たぶん鳶職を経験したことがない人が実情をあまり知らないまま、一般的なイメージだけで反対しているのだと、僕にはそう思えてなりません。

あなたはおそらく鳶職人という職業に興味を持っている。

でも反対する人も多く、本当に鳶職人になる道を選んで良いのか迷っている、、、

そんな状況にいるのだと思います。

僕自身は17歳で鳶職人になり、26歳からは経営者として鳶工事会社を27年ほど経営しています。

この記事では鳶業界に関わって35年の僕が、鳶業界の実情をなるべく私情を入れずに正しくお伝えします。

最終的に鳶職になるのを決めるのはあなた自身です。

周りの声に過剰に左右されず、自分の決定を正しく行える手助けになれば幸いです。

1.「鳶職なんてやめとけ」と周囲から言われてしまう4つの理由とその真実

まずはじめに「鳶職なんてやめとけ」と周囲から言われてしまったあなたの疑問を解消します。

鳶職になることを何故周囲の人は「やめとけ」と言うのか、考えられる理由とその真実についてお伝えします。

1.1 とにかく労働時間が長い(休みが少ない)と思われているから

鳶職をはじめとする建設業には『休みが少ない』『長時間労働』というイメージがつきまといます。

これ、僕の感覚(実体験)からすると半分合っていて半分間違っています。

合っている半分は『休みが少ない』という点。
間違っている半分は『長時間労働』という点です。

確かに、現状(2023年7月時点)ではまだまだ民間工事を中心に4週4閉所(毎週1日だけ現場が休み)の現場も多いので、休みは基本的に週1日の現場(会社)が多いです。

なので不本意ではありますが『休みが少ない』は現状ではその通りです。

ただし、この状況は現在解消されていく方向にあります。

2024年4月には建設業にも残業規制が適用される様になること、また休みが少ないという理由で就職を避ける若い人も多く、業界全体が採用に苦戦している状況を改善するために業界を挙げて(国交省などが主導して国を挙げてとも言えます)、この数年のうちには公共工事はもちろん民間工事においても4週8閉所(週休2日)が一般化されますので、今はまさに過渡期といえます。

今後1、2年でいよいよ建設業界(職人)も週休2日が当たり前になります。

では間違っている半分、『長時間労働』はどうか?

1日あたりの労働時間で見ると鳶職の仕事は定時(8時から17時)で終わることが多く、勤務中の休憩時間なども適切に確保されているため、週休1日であっても週あたりの実労働時間は40~45時間程度(残業がなければ)です。

また残業があっても毎日数時間が長期間にわたって続くというケースは稀で、他の職業に比べて労働時間が多い(長時間労働)とは言えません。

それでも、拘束時間がやや長いのは否めませんし、休みも現状では週1日と他産業に遅れをとっているのは事実ですので、ここは改善をしていかなければならない状況です。

比較的職人を多く抱える会社などでは、順番に休みを取ることなどにより会社単位で擬似的に週休2日を実現しているケースもあります。

1.2 雇用形態が不安定だと思われているから

主に下記の様な理由から鳶職(建設職人全般)は不安定な職業だと思われることがあります。

5、6年ほど前までは社保に加入していない会社も多かった
未だに日給月給制をとっている会社も多い
給料は働いた分だけという考え方から有給休暇などにも消極的
天候によって休みになることなどが過去にはあった
上記のような理由で収入が毎月一定ではない
退職金などがない

実際はどうかというと

社会保険は(当たり前ですが)ほとんどの会社が加入している
日給月給制は働いた分収入が増えるので、けしてネガティブなだけでは無い(今の首都圏のように仕事が豊富にある状態においては特に)
(少数ではあるが)しっかりした考えの会社は有給取得にも積極的
雨で現場を休みにすることは現在ではほとんどない(工事が進むと建物内部の仕事をしたりなど)
多くの会社が国の制度である建退共(建設業退職金共済制度)で退職金を準備している

など、イメージと実際の状況に差があります。

そもそも(優秀な)職人であれば、日本全国どこに行っても良い条件で雇用されるなど、職業人としての安定感は一般的なサラリーマンと比べても高い方だと僕などは考えています。

1.3 『歳をとっても出来るのか?』など将来性が無いと思われているから

これもいまだによく言われることですが、鳶職人は50代、60代でも活躍している人は大勢います。

というか、ほとんどの職人が60代まで活躍しています。

今や公務員など一部の職業を除いて、終身雇用は崩壊しつつあります。

一流企業のサラリーマンでも50才を過ぎてリストラにあって、再就職に苦労する人もいるようですが、職人はそもそも定年がありませんし、リストラにあったなどどいう話もほとんど聞いたことがありません。

世間のイメージとは違い鳶職人は歳をとっても安定して働き続けることができる職業です。

1.4 低学歴で他の仕事につけない人がやるものだと思われているから

大学は本来目的を持って学ぶ人が進むものですから、鳶職人に大卒者は少なく(鳶職人になるために大学で学ぶというケースはありませんので)よって低学歴という部分はある意味当たっていると言えます。

ただし、鳶職人は仕事の難しさが一般的に認識されているので、『他にやることがないから』という理由でなる人は少なく『鳶職人になりたい』という主体的な意志を持ってなる人が多い職業です。

大学卒(それが例え東大であろうと)、中卒だろうと、実力次第でフェアに評価されるのが職人の世界で、ある意味とても厳しい世界です。

経済的な理由などで進学を諦めざるを得ないような人にとっては、実力次第で稼げるとても魅力的な職業です。

2. 鳶職人のネガティブなイメージを覆す!現役鳶工事会社社長(元鳶職人)が鳶職をおすすめする4つの理由

この章では、僕が鳶職人をお勧めする理由を3つ伝えていきます。自分自身も鳶職人をやってきて後悔する点は1つもないのであなたにも自信を持ってこの仕事をお勧めできます。

2.1 ズバリ若いうちから稼げるから

一定の条件を満たすことが前提ではありますが、とび職人は若いうちから稼げる魅力的な仕事です。

見習いではなく一人前の職人であること
特に鉄骨建て方など技術が高い仕事ができること
大手のゼネコンの大規模現場を請け負える(上位の請負)会社で働いていること

などがその条件になります。

とび職人のリアルな給料については鳶職の平均給料は404万円!自社のリアルな年収データも公開をご覧ください。

また本人の能力や意欲次第ではありますが、若いうちに独立をしてさらに大きく稼ぐ事が可能なのも魅力の一つです。

誰もが目標にする(あこがれる?)年収1千万円を達成している鳶職人も一定数います。

鳶職人で大きく稼ぐ方法は鳶職人が年収1,000万円を達成するためのリアルな4つの方法を参考にしてください。

2.2 年齢、学歴一切関係無し!完全失力主義の世界だから

前の章でも少し触れましたが、鳶職人の一番の魅力は年齢、学歴、経験年数さえも一切関係ない完全実力主義だというところです。

一流大学卒の40代より20代前半の中卒の方が役職も給料も高いということが普通にある世界です。

僕自身も17歳で鳶職人になり、20歳の頃には職長(現場を1つ任される責任者)として、年上の職人さんたちをまとめて仕事をして、26歳で独立をしました。

独立当初も年上の職人の方が多い環境でしたが、みな僕を信じてついてきてくれる人ばかりでした。

徹底した実力主義は、能力ややる気がある人にとってはとても魅力的な環境ですが、中途半端な気持ちで仕事をする人にとっては厳しい世界です。

僕自身はこの実力主義がとても心地よく、鳶職人になって良かったなぁと思う1番大きい理由でもあります。

皆さんの中にも、純粋に実力を評価される環境で勝負したいと思う人はいると思いますが、そのような人にとって鳶職人は最高の環境だと言えます。

2.3 自分たちの仕事が形として残るやりがい

何もない更地から高さ200mを超えるビルなど、大きな建造物の骨格ともいえる鉄骨を建てる鳶職人は、他のどの建設職人よりも『俺たちがこの建物を建てた!』という実感を得られる仕事です。

この実感、達成感はたぶん皆さんが思うよりも大きく、鳶職人にとっての大きなモチベーションになっています。

自分たちが建てた建物はその後何10年も街に残り続け、自分たちも家族や友人を連れてその建物の中のレストランに食事に行ったり、遊びに行ったりできるなど、目に見える形で残り続けるのもやりがいとして感じられ大きな魅力となります。

昔、スーパーゼネコンのテレビCMで『地図に残る仕事』というキャッチコピーを使っていましたが、まさに地図に残る仕事の一番メインな部分を担うのが鳶職人だと言えます。

2.4 AIやロボットに簡単に奪われない仕事だから

ChatGPTをはじめとする生成AIがものすごいスピードで進化をしていて、この先数年間で多くの仕事がAIやロボットに代替されていくという話をよく耳にすると思います。

10年先の社会など誰にも予測できないほど、変化のスピードが早まっていますが僕は断言できます。

建設業にもAIやロボットなどが徐々に導入されてくると思いますが、建設業の全てをロボットが担うようになっているような未来では、あらゆる産業で『労働という概念が今とは全く変わっている』はずです。

またその途中、段階的に機械化されていく過程では、今の専門職種(大工さん塗装屋さんなど)の領域の外側で新たな工法などで行われることになり、その部分を誰が担えるのかと言えば、それは鳶職人しかあり得ないので工事現場で最後まで残るのはやはり鳶職人であり、もっともAIに仕事を奪われづらい職業なのではと僕などは本気で思っています。

3. 鳶職人に向いていない人(やめといた方が良い)のはこんな人

『鳶職人なんてやめとけ』とあなたが言われた時、鳶職という職業をさしてではなく、『鳶職人なんてお前には無理だからやめとけ』という意味で相手の人は言っているのかもしれません。

確かに、僕も全ての人が鳶職人になって成功できるとは思えませんし、かなり尖った職業である鳶職は『向き、不向き』がはっきりしています。

この章では過去大勢の鳶職人(辞めていった多くの社員を含め)を見てきた僕の視点で鳶職に向いていない人を伝えていきます。

下記3つに当てはまる人、まじで向いていないので『鳶職人になるのやめとけ』です笑

3.1 継続的な努力が続けられない人

まず初めに伝えたいことは、『鳶職人は一人前になるのにとても時間がかかる』ということです。

理由としては

鉄骨、足場、クレーンなどの建設機械、雑工事(安全設備整備)など、鳶職人は建設工事の中で担う部分が多岐に渡るため。
1つの建物の着工から竣工までに2年程度の時間がかかることが多く、鳶の仕事の一通りを1回体験するのにも2年程度の期間がかかるから。
鉄骨工事1つとっても、下回りの段取り、上部での取り付けなど役割が多くあり、段階的にしか経験できないから。

などが考えられます。

『タイパ』や『コスパ』など、なるべく労力をかけずに一定の成果を出すことが価値あることだと思われる風潮ですが、鳶職人の世界は効率よく学び技術を身につけていくことは大事ですが、『思いっきり労力をかけた上で』というところが前者とは違う部分で、日々の仕事の中で常に学ぶ姿勢、長期間にわたる継続的な努力が不可欠な職業です。

実際、半年くらいやって『自分は先輩たちのような仕事ができるようになるとは思えない』と言って辞めていく者が一定数いますが、自分には追いつけないと思える先輩たちも始めて半年頃は同じような気持ちを持っていて、その上でそこからの努力を続けて一人前の鳶職人になっています。

簡単に諦める
継続的な努力が苦手
手っ取り早くスキルを身につけたい

そんな考えが強い人は『鳶職なんてやめとけ』です。

3.2 自己管理ができない人

これは鳶職に限らず全ての職業でいえることだと思いますが、鳶職の場合は体調やメンタルの不良が直接的に大きな怪我や事故につながるという面があるため、特に自己管理が重要だということはお伝えしたいです。

一流の鳶職人(特にある程度年齢が高い人)を見ていると、どれだけお酒が好きでも休日の前以外は少量で済ませていたり、食事に対する意識が高かったり、休みの日でも体を適度に動かす趣味を持っていたりなど、その姿勢には頭が下がることが多いです。

反対に二流の鳶職人は二日酔いや体調不良で仕事に臨むことに特に罪悪感を持たないようなことも見受けます。

当たり前ですが、健全な肉体と精神を持ってして初めて良いパフォーマンスで仕事ができます。

危険な仕事である鳶職は特に自己管理意識の低い人には向かない職業だと言えます。

3.3 主体的に行動ができない人

鳶職人に限らず職人とはそもそも『身につけた技術や経験を武器に仕事をして対価を得る職業』なのに、教えてもらったことしかやろうとしないという姿勢では、絶対に一流の職人にはなれません!

学生時代の部活では全体練習以外に自主練をしてレギュラーを目指すなどしていたであろう人でも、仕事になると教えられたことだけやって、自分からはそれ以上を学ぼうとしない人がいることがあり、正直理解に苦しみます。

論理的に考えて、教えてもらったことだけできるようになったとて、それでは教えてくれる人を超えることなど絶対にできないじゃないですか。

自分が一流の鳶職人になろうと思えば、教えてもらったことプラス

常に自分の頭でもっと良いやり方がないか考える
疑問点は積極的に質問をする
先輩たちの仕事を見て盗む(もはや死語のようですが)

など、自ら主体的に行動することがマストで、それができない人は鳶職にはあまり向いていないように思います(俺は二流の鳶職人でいいんだというならそれでも良いですが、、、)

4. 一流の鳶職人になるために大事な環境(会社)の選び方について

『鳶職なんてやめとけ』という声にも負けず、自分の意思で鳶職人になろうとしているあなたを僕は心から応援したい!

鳶職人として幸せな職業人になるためには働く環境(会社)選びが重要になります。

以下4つの点を参考に自分の働く環境を考えてみてください。

4.1 レベルの高い職人と働ける環境か

あなたがもしプロ野球選手を目指すなら、甲子園出場はその道を目指す上での近道になると思います。

では、甲子園に出場するためにはどうすれば良いか?

甲子園出場経験のある高校に進学し、優秀な指導者に教わり、ハイレベルな仲間と切磋琢磨するのが重要だということに異論はないはずです。

鳶職人も同じで、超一流の鳶職人になろうと思えば、超一流の人から教わり、超一流の仲間と一緒に働けるという環境に身を置くのが唯一にして最高の方法です。

4.2 大きな現場を経験できる環境か

日本国内には200mを超える超高層ビルが建設中のものも含めて50棟弱あります(というか50棟弱しかありません)

日本全国に鳶工事会社が何社あるのか(おそらく数千社)僕には分かりませんが、50棟もないこれらのビルの建設に携われる鳶工事会社はほんの一握で、残りのほとんどの会社に所属する鳶職人にははっきり言って無縁の世界です。

あなたが、鳶職人として誰もが知る有名な建物の工事に携わろうと思えば、それらの工事に関われる可能性があるほんの一握りの会社に所属している必要があるということです。

4.3 会社が成長している(社員が増えている)か

あなたがそのほんの一握りの会社に所属しているとして、その会社が成長している(社員が増える、仕事が増える)環境になければ、主要な工事はいつもお決まりのメンバーでやることになり、あなたにその役割が回ってくるのは遠い先の話かもしれません。

成長中かつ大きな現場を受注できる可能性のある会社となるとその数は本当に少ないものになりますが、どうせ鳶職人をやるのであれば、そのような環境に身を置いてもらいたいと思います。

4.4 経営者の人物像

上記3つの環境が揃っている会社が身近にあり、その会社に就職できるのであれば最高です。

あるいはこれからそうなる可能性が高い会社を選ぶという目線も大事です。

そうなる会社かどうかを見極める上で一番重要になるのがその会社の経営者がどういう人物かという点。

鳶職人として一流の人物が経営者として一流かというとそれは全く別の話で、この業界をずっとみていると、職人としてはほどほど(あるいは全く職人経験がない)な人で素晴らしい会社の経営者になっている人の方が多いように感じます。

良い経営者を見極める点としては

  • 将来のビジョンが明確
  • 社員ファーストの姿勢
  • 採用に力を注いでいる
  • 数字に強い

などが挙げられます。

会社は経営者の器を超えられないとよく言われますが、まさにその通りであると僕も思います。

会社を選ぶ際にはどういう人が経営しているのかをよく確認することが大事です。

まとめ

例えば、ディズニーランドに行ったことがない人に

  • 混んでいて大変(みたい)だからやめとけ
  • 入場料がものすごく高い(らしい)からやめとけ
  • 大して面白くない(だろうから)からやめとけ

と言われたとして、あなたはそれでディズニーランドに行くことをやめるでしょうか?

きっと『行ったことがないやつが何を言っているんだ!』と聞き流しますよね?

『鳶職なんてやめとけ』

鳶職人をしっかりと経験したことがある人は、おそらくそんなことは言わないです。

鳶職が大好きで、鳶職人を心から尊敬している僕は、あなたが鳶職人になって素晴らしい人生が送れることを心から願っています。

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