「中卒だけど鳶職として働いていく事はできるの?」
中卒で仕事を探しているあなたはこんな不安を抱えているかもしれません。
結論、中卒で鳶職になる事は出来ます。
この記事を書いている私自身も中卒で鳶職人になり、その後独立をして年収1000万円を超えました。
簡単なことばかりではありませんでしたが今では経営者として多くの従業員を抱え、誇りを持って鳶職の務め果たしています。
そこで今回は「中卒で鳶の世界に入り込んだ私が独立して年収1000万円を超えるまでの話」をします。
私の経歴をみて「鳶の世界は可能性にみちている」ということを少しでも感じてもらえると嬉しいです。
日比建設では未経験でも鳶職人を大歓迎してます
目次
1. 中卒で鳶工事会社社長になった男の話
まずはじめに、中卒で鳶職人になってとても幸せな人生を送っている人物の中から、僕がもっともよく知る人物、そう僕自身のお話を簡単にさせてください。
1.1 学生時代(〜17歳)
子どもの頃の僕は泣き虫で、高いところがとても苦手な子どもでした(だったようです)
- 押入れの上の段に乗せられただけで大泣きする。
- お父さんの肩車で泣く。
- 小学生の頃家族でキャンプに行って、少し高いところから川に飛び込むみたいなのも、1歳年下の弟(現在うちの会社のNO2です)は普通にできるのに、僕はビビって全くできない。
- ジェットコースターに乗れるようになったのは中学生になってから。
などなど、この手の話はいくらでもあります。
ちなみに僕は、おじいちゃんも、お父さんも、お父さんのお兄さん達4人(僕からすると叔父さん達)も全員鳶職人という『鳶一族みたいな家系』に産まれました。
小学校時代はいわゆる野球少年で、当時のジャイアンツの4番バッター原辰徳選手が僕にとってのヒーローでした。そんな僕でしたので、小学校の卒業文集の『将来の夢』という作文には『プロ野球選手になってジャイアンツの4番打者になる』と書いていました。
が、中学に入学すると一転、友達に誘われるがままなぜかバスケ部に入学します。中学生活はとても楽しい3年間でした。部活も楽しいし、勉強もそれなりにできたし、女の子にもモテました(笑)
中学に入ってからは割と早い段階で『将来は鳶職人になる』と決めていました。父親やおじさん達を見て純粋にカッコいいなぁと憧れを持っていたのだと思います。中学校の卒業文集には『将来の夢は日本一の鳶職人になること』と、おそらく日本中でただ一人と思えるような夢を書いています。
職人になるなら学歴なんて意味が無い。1日でも早く働いて技術を身につけようと中3の夏休みくらいまで思っていました。
が、2学期に入った頃に『やっぱり高校だけ行こうかな』と考え直すようになります。いくつか理由はあったのですが、一番大きな理由は『夏休みが無くなるのは辛すぎる』という何ともヘタレな理由でした。
そもそも進学なんて全く考えていなかったので、塾にも夏期講習にも行ったことがありません。というか、何なら家で宿題すらしたことないくらいです。ただ、幸いなことに?持って生まれた地頭の良さから(自分で言うな)勉強はそれなりにできたので、都立高校の普通科を一校のみ受験し、余裕で合格し高校へ進学しました。
高校生活は中学時代に比べるとあまり楽しいものではありませんでした。部活には入らず、地元のステーキハウスでアルバイトをし、稼いだお金で原付を買ったり、洋服を買ったりというのが楽しかった記憶はあります。2年生になる頃には『こんな毎日に意味ないなぁ』と強く思うようになり、1学期が終わるところで高校を少し早めに卒業し鳶職人になる決意をします。
1.2 職人時代(17歳〜26歳)
全く同じタイミングで1歳年下の弟も高校を辞めます。理由は単純で『兄貴よりすごい鳶職人になるためには先を越される訳にはいかない』と言うただそれだけの理由です。弟は僕など比べ物にならないくらいの負けず嫌いで、僕以上に鳶一族のDNAをたっぷりと受け継いでいる才能の持ち主です。
全く同時期に鳶職人になった僕たちは、当時父親が経営する(と言っても個人事業に毛が生えた程度の)会社に就職し、中卒という肩書など物ともせず1日も早く一人前の鳶職人になるべく互いに切磋琢磨しました。
お互い20歳になる頃には職長として現場を任されるようになります。今の時代ではちょっと考えられませんね。バブル景気に沸くこの当時だったからこそ僕らみたいな若造が職長になることも許される空気があったのだと思います。
この頃はとにかく忙しかった。『今月は3日も休めたね!』と喜んだり、日勤と夜勤の掛け持ちで月に35日分の給料をもらったなんてこともありました。ブラックを通り越して漆黒です(笑)
そんな環境でしたので鳶職人としての技術を身につけるのも、職長としての経験を積むのもめちゃくちゃハイペースでした。当時は辛く感じることもありましたが、今思えばとても恵まれた環境だったと思います。ものごとなんでもそうですが、狂ったようにやる時期がないと一流にはなれませんから、、、
バブル期の日本は今思えば異常な事の連続でした。父親の車が仕事用のハイエースから、セドリックに変わり、シーマに代わり、BMW7シリーズに変わり、そのBMWも当時一番グレードの高いものに変わる。
家だって借家住まいが建売りに変わり、なぜか伊豆高原に敷地200坪の6LDKサウナ付き豪邸を建てるみたいな、よく分からない変化をします。
そんなことが数年のうちに起きるのです。
鳶の親方が札束握りしめてヤナセ(当時メルセデスを扱っていたカーディーラー)に行って、『これをくれ!』と現金でベンツSクラスを買って行ったなんて話も聞いたことがあります。
そんなある日、僕にとっては青天の霹靂とも言える大きな事件が起きます
1.3 経営者時代(26歳〜現在)
あれは僕が鳶職人になって9年目の26歳になって半年くらい経った頃、経営者である父親が音信不通になります。簡単に説明するとバブルがはじけ放漫経営で散財を続けていた父親が借金で首が回らなくなり姿をくらましたということがある日突然起きたのです。
会社のお金も家や車も当然差し押さえられましたが、幸いなことにその頃には仕事に関わることはほとんど僕が行っていたので、弟と共に当時数名いた社員(5.60代のおじさんばかり)を引き連れ、別会社を起こして細々と事業を始めるところから僕の経営者人生は始まります。
独立当初は仕事を確保するのに必死で、小さな工事でも改修の足場でもなんでもやりました。一つ一つの仕事をプライドを持って誠実に行うことで信用が増え、少しずつ大きな現場を任せてもらえるようになります。27年経った今では東京駅の目の前で高さ250mを超える超高層ビルの工事に携われるようにまでなっています。
僕自身は30歳を過ぎたあたりから、意識的に現場から離れて経営者としての仕事に専念するようにしました。鳶の事業を成長させるのはもちろん、鳶工事とは別の事業も手掛けるようにしました。頂点から谷底に転落する父親の姿を間近で見ていたので、絶対に倒産しない会社を作ろうという意識が強かったのだと思います。事業の中には今も続けているうまくいったものもあれば、そうでないものもたくさんあります。
『よく次から次へと新しいことにチャレンジできるね。怖くないの?』みたいなことを聞かれることがあります。
実はあまり怖くないんです。
持って生まれた性格や育ってきた環境も影響しているのでしょうが、一番の理由は『最悪全部失敗しても、鳶職人に戻れば家族を養うくらいのことはできる』という自信があるからなんだと思います。
鳶職人として一流になれば、日本全国(あるいは世界でも)どこでだって仕事に就くことができます。これこそが手に職を付ける職人という生き方最大のメリットです。
現在、経営者人生も27年になりました。会社を支えてくれる素晴らしい社員達、僕を支えてくれる家族に恵まれとても充実した毎日を送っています。
鳶職人という生き方が万人に合うとは思いませんが、(僕と同じように)鳶職人だからこそ輝けるという人は少なからずいると思います。
様々な事情から中卒で社会に出る人たちが、やりがいを持って働ける職業に就けることを願っています。
2. 中卒でも鳶職人になれる4つの理由
この章では具体的な事実を元に、中卒でも鳶職人になれる4つの理由をお伝えします。
あなたの考えが『中卒でも鳶職人になれるのか?』から『中卒こそ鳶職人になったほうがいい!』へ、きっと変わります。
2.1 中卒で鳶職人になっている人はたくさんいる
現場の主役とも言える鳶職人の中には中卒で活躍している人が沢山います。
残念ながら日本全体での統計データなどは見つけられませんでしたが、うちの会社に現在所属する日本人社員の最終学歴を見ると
中卒 25.0%
高校中退 37.5%
高卒 31.3%
専門卒以上 6.3%
となっており、半数以上が高校中退も含めた中卒です。
おそらく日本全体のデータと比較してもそんなに大きくズレることは無いはずです。
(高校中退も含めた)中卒者が多い理由ですが、僕が考える理由としては
- そもそも中卒で働ける仕事が少ない
- 学歴不問のイメージが強い
- 中卒で鳶職をしている先輩などが活躍している様子を聞いたことがある
などが挙げられます。
また、『中卒や高校中退だから鳶職人になった』ではなく、『鳶職人になるなら学歴なんて関係ないから高校に行かなかった、途中で辞めた』という、積極的中卒者も少なからず存在します。
先述の通り、僕自身も鳶になることは中学時代から決めていて、中学卒業したらすぐに働こうと思っていましたが、直前になって『長期の夏休みが無くなるのは辛すぎる!』と言う、なんともヘタレな理由から高校進学をしたものの、『鳶職人になるなら高校に通っても意味無いな、1日でも早く仕事を始めるべきだな』と思い直し、高校2年の1学期を終えて鳶職人になることを決意し高校を中退したという経緯があります。
そしてこの決断は、人生における最も重要な(正しい)決断の1つだったと今でも思っています。
2.2 中卒は先輩から歓迎されやすい
『中卒の自分が会社に受け入れてもらえるのか?』
『先輩たちの迷惑にしかならないのではないか?』
そんな不安を抱える人も多いと思います。
うちの会社では今まで多くの中卒者を受け入れてきましたが、中卒者は会社からも先輩たちからもとても歓迎されやすいです。
- 鳶職人にはリーダーシップのあるアニキ肌の人が多いので、単純に頼りなさげな中卒新人を一人前に育ててあげたくなる
- 中卒は親や学校の先生以外には社会との接点がないので、先輩の言うことをそのまま受け入れる素直な子が多い
- 先輩たちの中にも中卒者が多いので不安な気持ちが分かる
などが理由としては考えられます。
年齢的にも社会経験的にも乏しい中卒者が一生懸命働く姿は、それだけでみんなから応援をしてもらえる立派な理由になり得るのでしょう。
不安な気持ちを乗り越えて一歩踏み出せば、思っていたよりずっと歓迎されているんだということがきっと実感できるはずです。
2.3 学歴が全く関係ない
皆さんがイメージされる通り、鳶職人の世界では学歴は評価されません。
というと『バカでもできるのが職人』と勘違いされる方もいるようですが、最終的に優秀な職人や職長(現場毎に会社の代表として仕事を任される管理職)になれる人は地頭の良い人ばかりです。
僕が思う地頭の良さとは、学校のお勉強のように『答えが必ずある問題を解く能力』とは少し違っていて、『用意された答えが無い問題点に対して最善の解決策を導き出せる能力』のことだと考えています。
そして、この地頭の良い人というのは高学歴の人の中にも、低学歴の人の中にも同じような割合で一定数いると思っています。
せっかく持った地頭の良さを『学歴というフィルター』を通してでしか評価してもらえない職種や会社が多い中、鳶職人なら純粋に地頭の良さで勝負することが可能なので、有名大学を卒業していようが、中卒であろうが関係なく評価してもらえる点で中卒者にこそ有利な(不利な点が少ない)就職先であると言えます。
2.4 中卒で働いた場合の初任給が高い
中学を卒業してすぐに働き出した場合の初任給の平均月額は15万円程度だと言われています。
今まで学生だった人からすると15万円は高額に感じるかもしれませんが、高卒の平均約18万円、大卒の平均約22万円と比較するとけして高い給料とは言えません。
その点鳶職人(他、建設業の職人全般)であれば中卒者でも月給20万円を超える求人を見かけます。
鳶職人の学歴不問は初任給にも反映されています。
その後の昇給なども学歴に関係なく実力本位ですので、中卒者にとって鳶職人は魅力的な就職先の1つだと言えそうです。
参考:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html
3. 高卒(大卒)よりも中卒の方が有利な点
学歴が不利にならないどころか、少しでも早いうちに始めた方がメリットが大きいのも鳶職人の世界です。職人になるなら中卒の方が有利と思える理由をお伝えします。
3.1 早く始めた方が覚えが良い
これはスポーツなどをイメージしてもらうと分かりやすいのですが、単純に若いうちから始めた方が上達するスピードや上級者になれる可能性が高いですよね?
プロ野球選手やプロサッカー選手、オリンピックに出場するアスリートのほとんどは幼少期からそのスポーツを行っています。
これらの事実は優れたアスリートになるためには、少しでも若いうちから始める事が大事だということを端的に物語っています。
プロアスリートと比較するのは少しおこがましいかも知れませんが、我々鳶職人も似ている点はあって、15歳から始めるのと23歳から始めるのでは基本的動作を習得するまでのスピードや上達具合に少なからず差が出ます。
鳶職人という道を選ぶのであれば『1日でも早く始めること』それ自体が大きなアドバンテージになります。
3.2 若いうちに経験年数を稼げる
中卒で鳶職人を始めると、(当たり前ですが)若いうちに経験年数を稼ぐことができます。
それの何が良いのか?
鳶職人として仕事の幅を広げるためには様々な資格を取得する必要がありますが、資格の中には『◯年以上の実務経験』という要件が設けられているものがあります。
鳶に必要な足場の組み立て解体や鉄骨建て方などの作業主任者という資格を受講するためには3年以上の実務経験が、また国家資格である1級鳶技能士を受講するためには7年以上の実務経験が必要です(鳶技能士は3級から順番に合格することで短縮することも可能)
単純にとび1級を受講しようとすると、中卒なら22歳で可能ですが、大卒だと30歳近くの年齢になります。
もう1つ、僕が考える大きな点としては将来独立をすることになった場合です。
自ら事業主となって鳶工事業を行う場合は『建設業許可』を取得する必要があります。
この建設業許可を取得する条件の1つに『主任技術者』の配置があり、主任技術者の要件を満たすためには10年以上の実務経験が必要になります(他に建築士や施工管理技士の資格を取るなどの方法もあります)
独立時に自分が主任技術者の要件を満たしていなければ、別に条件を満たすものを雇用する必要が出てきます。
中卒なら最短25歳で主任技術者の要件を満たし、スムーズに建設業許可を取得し独立をすることが可能です。
以上のような理由から、若いうちに経験年数を稼げるという意味でも中卒は有利に働きます。
3.3 中卒は3,000万円得をする⁈
ここでは中卒で鳶職人になる場合と、高卒、大卒で鳶職人になる場合を経済的な収支という視点で比較してみます。
前提条件として、各年齢時における給料は弊社の賃金表をベースに概算値を入力しています。
高校の学費は文科省調査データ(公立高校46万円、私立高校97万円)を参考に70万円としました。
大学学費等も同じく文科省調査データを参考に120万円としました(大学は私立と公立また学部などによって差が大きいです)
それでは下の表をご覧ください。
年齢 | 中卒 | 高卒 | 大卒 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
16歳 | 給料 | 2,400,000 | 高校学費 | -700,000 | 高校学費 | -700,000 |
17歳 | 給料 | 2,700,000 | 高校学費 | -700,000 | 高校学費 | -700,000 |
18歳 | 給料 | 3,000,000 | 高校学費 | -700,000 | 高校学費 | -700,000 |
19歳 | 給料 | 3,300,000 | 給料 | 2,700,000 | 大学学費 | -1,200,000 |
20歳 | 給料 | 3,600,000 | 給料 | 3,000,000 | 大学学費 | -1,200,000 |
21歳 | 給料 | 3,900,000 | 給料 | 3,300,000 | 大学学費 | -1,200,000 |
22歳 | 給料 | 4,100,000 | 給料 | 3,600,000 | 大学学費 | -1,200,000 |
23歳 | 給料 | 4,300,000 | 給料 | 3,900,000 | 給料 | 3,000,000 |
収支合計 | 27,300,000 | 14,400,000 | -3,900,000 | |||
差額 | 0 | -12,900,000 | -31,200,000 |
中卒は16歳から23歳までの8年間働いたことで得られるであろう収入を記載していて、合計で2,730万円になります。
高卒は16歳から18歳の3年間は学費を支払い、19歳から23歳までの5年間は収入を記載しています。8年間の収支で1,440万円のプラスになります。
大卒は16歳から22歳までの7年間学費を支払い、23歳1年間で得られる収入を記載しています。8年間の収支は学費の割合が大きいため390万円のマイナスになります。
この表で注目したい点が2つあります。
1点目は23歳時点での年収の差です。
中卒と高卒で40万円、中卒と大卒だと130万円も年収に差がつきます。一般的には職人以外の職業では中々このような差にはならないでしょう。
2点目は表の一番下の8年間の収支部分です。
16歳から23歳までの8年間の経済的収支の差が中卒と高卒で1,290万円、中卒と大卒だと3,120万円にもなります。
郊外なら家やマンションが買えてしまうレベルの非常に大きな差です。
また、大学進学者の奨学金平均借入額が324.3万円というデータもあります。
大学を卒業した時点で300万円以上の借金を抱え、就職後に給料から返済していく負担の大きさがたびたびメディアなどでも取り上げられています。
もちろん目的を持って大学へ進学し、学びを生かして希望の職業に就くという選択肢は素晴らしいことだと思います。
一方、『みんな進学してるから』という理由で進学を選択する人も多いようですが、経済的な収支の差は思った以上に大きなものになるという点も十分考慮に入れる必要がありそうです。
参考:文部科学省「子供の学習費調査」
https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa03/gakushuuhi/1268091.htm参考:労働者福祉中央協議会「奨学金や教育費負担に関するアンケート調査」並びに「奨学金に関する一斉相談」
https://www.rofuku.net/pressrelease20190312/
4. 中卒で鳶職人になるために注意する点
ここまで中卒でも鳶職人になれる理由や、中卒こそ得られるメリットなどをお伝えしてきましたが、中卒ならではの注意すべき点もあるのでここでお伝えします。
4.1 18歳未満だと制限されることがある
労働基準法では18歳未満の者を『年少者』と定め、様々な保護規定を設けています。
- 原則として時間外労働や休日労働の禁止
- 深夜労働(午後10時から翌日午前5時)の禁止
- 危険有害業務の禁止
危険有害業務の中には『有害物・危険物の取り扱い』などと並んで『高さが5m以上で墜落の恐れのある場所における業務』の規定があり厳しく制限されています。
鳶職人は足場の組み立てや鉄骨建て方など、多くの作業を5m以上の高所で行ないます。
ですが、中卒で鳶職人になった場合は最長で3年間(4月生まれであれば2年1ヶ月間)高さ5m未満の場所で行える鳶職の補助的作業のみを行うことになります。
僕自身は中卒で鳶職人になる場合の最大のハードルがこれだと思っています。
鳶職人になって半年くらいして、少し仕事に慣れてくると高所で仕事をしている先輩たちがとてもカッコ良く見えてきます。
完全な先輩であればまだしも、後から入社してきた高卒の後輩(年上だけど)まで高所で仕事をしだします。
『俺も一緒に高所で仕事をしたい』と思って当然の状態ですが、残念ながらできません(法律での制限ですから絶対に無理です)
ただこれには良い点もあって、2〜3年の間じっくりと補助作業をすることで気づけることや学べることが実はたくさんあります。
18歳になっていざ高所作業ができるようになった時に、その経験をしていない人たちとは明らかに違うブーストがかかると思います。
3年間補助作業が中心にならざるを得ないことは少し残念なことですが、良い面を見てポジティブに捉えることが大事です。
4.2 長期間の休みがなくなる
これは日本の会社であればほとんど全ての業種・会社で言えることですが、社会人になると学生の時のような長期休暇(夏休みのような)は取得できなくなります。
前述した通り、僕が一応高校だけは行っておこうと思った理由もこれでした、長期の夏休み無くなります、、、
そこで多くの大学生などは、就職前の学生最後の数ヶ月間を人生最後の長期休みと捉えて旅行に行きまくるなどして遊び倒します(笑)
しかし高卒や中卒などでは卒業から就職までの期間が短く、またアルバイトでお金を貯めるなどもし辛いためそのようなことはほとんどできません。
『社会に出るってそういうものです』と言ってしまえばそれまでですが、その切なさは僕自身が身をもって理解しています。
5. 中卒は特に会社選びが重要
これは中卒に限った話では無いかもしれませんが、就職をする上で『良い会社』を選ぶことはとても大切です。
一般的にはその会社の業務内容、仕事内容のほかに、給料、休日休暇、福利厚生、教育制度などを判断材料に会社を選ぶ人が多いようです。
中卒で鳶職人になろうと思った場合もそれらを基準に選ぶことになりますが、特に気をつけたい点がいくつかあるのでここであげたいと思います。
5.1 教育体制
残念ながら、いまだに職人の世界では『先輩の技を盗んで覚えろ』的な考え方が主流を占めていて、入社初日からいきなり現場に出て仕事をするのも割と普通のことです。
いくら座学で泳ぎ方の知識を得ても実際に泳げるようにはならないのと同じで、鳶職人の世界も現場で仕事をしながらでしか学べないことがほとんどではありますが、それでも例えば道具や材料の名前、基本的な作業に対する知識などを予備知識として学んだ上で現場に出るのと、そうで無いのとでは仕事の上達に差がつくのも事実です。
少なくとも未経験の就職者に対しては何らかの教育プログラムを持っているという会社に入社することが大事です。
5.2 サポート体制
少数ではありますが、鳶工事会社の中には未経験者に対して一定期間『専属の教育指導係』をつけて現場はもちろん、現場を離れた場所でも相談にのるなどのサポートを行っている会社があります。
特に中卒者の場合はアルバイト経験すら無いのが普通ですので、卒業後いきなり社会に出ることになり、毎日が初めての経験ばかりで不安の連続です。
中卒者に対しては仕事を教えるということ以上に、社会人としての基本を教えるなど、しっかりとしたサポート体制がある(制度までなくてもそのような考え方をしっかりと持った)会社を選ぶことも大事です。
5.3 休日・休暇
他の業界のほとんどが週休2日制のなか、建設業界はいまだに週休1日(日曜日のみが休み)で休日の面では大きく遅れをとっているという現状があります。
現場自体が日曜日のみ休みなので、そこで働く職人さんたちもそれに合わせて日曜のみ休みという体制を取らざるを得ない状態です。
ただしこの状態も少しずつ改善されてきており、数年以内には多くの現場が週休2日制に移行すると言われており、今は過渡期にある状態です。
鳶工事会社の中でも比較的大きな会社であれば、新入社員のみ週休2日制にするなどフレキシブルな働き方が可能な会社もあります。
また有給休暇についても確認しておきたいところです。
多くの鳶工事会社は有給休暇制度に消極的(ほとんど取らせていない)ですが、しっかり制度を整え100%消化を目標にしている会社もごく少数あります。
有給休暇は労働者の権利ですので、制度や実際の取得状況についてしっかりと確認しておきたいところです。
6. 中卒が活躍できる会社『日比建設』
僕が経営する日比建設では、今この瞬間も中卒の鳶職人が200mを超える超高層ビル現場などで仕事をしています。
彼らの活躍が会社の成長の原動力なので、社員にとって少しでも働きやすい会社にするべく様々な制度を取り入れています。
前章の『中卒は特に会社選びが重要』であげた3項目『教育体制』『サポート体制』『休日・休暇』についても入社後の育成プログラム『鳶大学』や一人ひとりに『専属教育係』をつける事、週休2日や有給休暇100%消化などを制度として行っています。
また、僕自身が中卒を断念した理由である長期夏休みについても『21日間夏休み制度』をというものを設けています。
文字通り、20歳の誕生日を迎えるその年まで(中卒であれば5年間、高卒であれば2年間)8月に連続3週間の夏休みを付与しています。
こういう制度がある会社であれば(たぶん日本でうちの会社だけだと思いますが)高校に進学した友達と一緒に夏休みを大いに楽しむことも可能です(それでも半分ですけどね)
大いに働き、大いに遊ぶことは僕自身も大切にしている事ですし、社員にも推奨しています。
ここで、実際にうちの会社で今も活躍してくれている中卒社員を紹介します。
現在39歳のO君は中卒で16歳の時にうちの会社に入社しました。
もともと持った地頭の良さを発揮して鳶職人としてメキメキと成長した彼は、20代のうちに職長を任せられるようになります。
職長業務(現場管理)と鳶職人としての能力というのはそれぞれ全く違う能力なのですが、彼は両方を高いレベルで備える日比建設随一のマルチプレイヤーです。
プライベートでは若くして結婚をし、20代でマイホームを購入し、3人の子どもの良き父親でもあります。
鳶職以外の仕事もやってみたいと2度会社を辞めた事がありますが、『やっぱり鳶職が好きだ』と2度とも復帰をしてくれていて現在に至ります。
日比建設の屋台骨を支える貴重な人材の一人です。
Y君も中卒でうちの会社に入社してきた1人です。
彼は中学校に入学して割と早い段階で友達関係が上手くいかずイジメを受け不登校になってしまいます。そのままほぼ3年間学校に行けない状態が続いたので、進学は諦め、たまたま『近所の会社だから』という理由でうちの会社の面接を受けます。
面接当日のことは今でも覚えています。先生に付き添われてきた彼は色白でひょろひょろ、とても口数の少ない印象でした。正直、鳶職人になるのは難しいかなぁと思いましたが、受け入れることにしました。
入社してからの彼は真面目にコツコツ仕事を続けます。優秀な先輩達に囲まれて仕事をしていく中、もともと頭の良い彼は仕事の覚えもとても早くできる仕事をどんどん増やし、重要な仕事も任されるようになります。体力も筋力もつけ、18歳になる頃には見た目も中身も立派な鳶職人に成長しました。
18歳の頃の僕とは比べ物にならないレベルです。
昨年、23歳になった彼は知り合いと共に独立をし、より厳しい環境で成長をするべく日々頑張っています。
23歳といえば大卒であれば社会人1年目ですが、彼は7年間職人としての技術を磨いた上でその若さで新しいステージに挑戦しています。
7. まとめ
文部科学省の『学校基本調査』によれば、令和3年度(2021年)の高校への進学率は98.9%となっています。
ごく少数である残り1.1%の生徒は様々な事情や理由により高校進学をせず就職など別の進路を選んだことになります。
また、同調査によると令和2年度に高校を中途退学した生徒の割合が1.1%との報告もあります。
1年で1.1%ということは3年間で3.3%ほどの生徒が中途退学していると予想されます。
高校へ進学しなかった1.1%と中途退学した3.3%を合わせた4.4%の人が学歴上は『中卒』として社会に出ている計算になります(のちに高卒認定試験を受けるなどして高卒資格を得る人もいると思いますが)
中卒者は現在の日本社会では超少数派です。
その超少数派が多数を占めるのが鳶職人の世界です。
鳶職人たちがいなければ、スカイツリーも六本木ヒルズも建ちません。
地上634mにあるスカイツリーの一番上の鉄骨を取り付けたのも鳶職人です(そして50%以上の確率で中卒です笑)
うちの会社の半数以上は中卒者だということは冒頭お伝えしましたが、彼らの大半は家族を持ち、子どもを育て、20代で家を持ち、仕事にプライベートに充実した毎日を送っています。
現場での彼らは昔職人だった僕から見てもめちゃくちゃカッコよく、スーパーマンのようです。
様々な理由から進学とは違う道を選択した中卒が輝ける世界、それが鳶職人の世界です。
参考:文部科学省「学校基本調査」
https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm
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