『こんなに辛い仕事だとは思わなかった』
『鳶職には向いていないから会社を辞めたい』
鳶職人になってまだたった数ヶ月なのに辞めたいと思うなんて、かっこ悪いし恥ずかしい、、、
あなたはそんな風に思っていませんか?
安心してください。
今はバリバリの鳶職人として、誰もが知っているあの大きなビル工事に携わった人も、あなたと同じように始めて数ヶ月の頃は『毎日仕事が辛い、辞めたい』と思っていたのです。
鳶職人で仕事が辛いと思ったことがない人なんておそらくほとんど居ません。
なので、今のあなたが『鳶職を辞めたい』と思うのは、かっこ悪いことでも恥ずかしいことでもありません。
ある意味いたって普通の感情です。
今では鳶工事会社を経営して26年になる僕自身も、17歳で鳶職人になりたての頃はほぼ毎日
『現場に行きたくない』
『明日現場が休みになるくらい大雨降ってほしい』
って思っていました。
そんな僕自身の実体験や、弊社に所属する現役鳶職人、残念ながら退職をしていった職人たちの実体験などを織り交ぜながら『鳶職を辞めたい』と思った時の考え方について綴っていきたいと思います。
1. 現役鳶職人15人にアンケート
この章では日比建設に在籍中の鳶職人に行った『辞めたい』に関するアンケートの結果とその解説を行っていきます。
1.1 鳶職を辞めたいと思ったことはありますか?
想像通り?ほとんどの人が『辞めたい』と考えたことがあるという結果となりました。
『ない』と答えた人は、よほどこの仕事が自分に合っていたのでしょうか?
『仕事が辛い』と思ったことはあれど、それが『辞めたい』とまでには繋がらなかったようです。
1.2 鳶職をはじめてからどれくらいの時期に辞めたいと思いましたか?
辞めたいと思った事がある人のうち80%以上が『辞めたいと思ったのは始めて1年以内』という結果になりました。
実際に退職していった社員をみても、10代に限るとほとんど全員が1年以内に退職をしているので、やはり最初の1年を乗り越えられるかどうかが大きな分かれ目になるようです。
参考までに、1年以上続けた上で退職を考えた人の理由としては『他の仕事も体験してみたい』などがありました。
1.3 辞めたいと思った1番の原因はなんですか?
などの理由が上がりました。
この後の章でも触れますが、過去実際に退職していった社員に聞いた退職理由で一番多かったのは『思っていた仕事と違った』でした。
辞めたいとは思ったけど辞めなかった者の中にこの理由を答えるものが(今回たまたまかも知れませんが)いませんでしたので、辞めてしまった者との違いを考える上で『事前に抱く鳶職人の仕事のイメージ』によって、辛い時を乗り越えられるかどうかに影響するのかもしれません。
1.4 なぜ辞めずに続けようと思ったのですか?
などの理由があがりました。
- 明確な目標がある者
- 負けず嫌いな者
- 現場以外まで含めてプラスになることを見出せた者
以上のような人たちが、辛い時期を乗り越えて一人前のとび職人になった人たちの特徴としてあるようです。
2. 鳶職を辞めたいと思って辞めた人のリアルな声TOP3
残念ながら、過去に多くの社員が退職(鳶職自体を辞めてしまった)していきましたが、その理由で多かったもの3つについて解説していきます。
2.1 こんなに大変な仕事だとは思っていなかった(思っていたのと違う)
新卒採用を始めてから現在までの9年間で退職していった社員のうち、一番多かった退職理由が『思っていた仕事と違いました』というものです。
会社説明会で仕事の内容を伝え、面接でも大変な部分も含めて(なんなら大変な部分を強調して)伝えているつもりなのですが、それでもこの理由で辞めていく社員が減ることはありません。
こちらの説明不足や力不足は謙虚に認めた上で、やはり仕事に対する考え方に少し甘えがあるように感じることがあります。
当然ですが就職前の未経験段階でその仕事のことを100%知ること、理解することなどどう考えても不可能です。
ということは、絶対に『思っていたのと違う』という事態は起こるとも言えます。
一見華やかで楽しそうな職業であっても、目に付きづらい部分では地味で大変な作業があるものです。
『思っていたのと違う』は誰にでも起こる感情ですが、その程度の理由で退職していると次の職業でも、そのまた次の職業でも『思っていたのと違う』は必ず発生するので、結果転職を繰り返すことにつながります。
2.2 先輩たちが怖い(人間関係)
『先輩に怒られるのが辛いので辞めたいです』この理由もとてもよく聞きます。
稀に理由もなく理不尽に怒られるというケースもあると思います(うちの会社でも過去そのようなケースがありました)が、ほとんどは怒られるというより注意や指導をされている場合が多いです。
ここは大事なポイントで『怒られる』と『注意・指導されている』を分けて考えなければいけません。
両者の違いは口調やその時の態度(怖そうな態度)にあるのではなく、自分のためを思って言ってくれれいるかどうかにあります。
一見優しそうな口調でも『ただただ怒られているだけ』ということもあれば、めちゃくちゃ怖そうに厳しい口調で言われているけど『相手のためを思って指導している』ということがあるということです。
相手に威圧感を与えずに『注意や指導』ができるのであれば、もちろんそれが理想ではあるのですが、これって中々難しいことで指導する側に相当な人間的器の大きさを求められます。
経営者を25年以上やっている50過ぎのおじさん(僕)でも感情的に言ってしまうことは多々あります。
また落ち着いた場面であれば、そのように教える事ができる人でも、仕事をしながらとても忙しい状態でとなるとつい口調が強くなるということも理解してもらいたいところです。
怒られる・指導されるなどで過剰に落ち込む人もいますが、仕事中の叱責はその場で受け止めて改善し、あとは綺麗に忘れてしまうくらいがちょうど良いです。
叱責・指導した側もいちいち覚えていないことも多いですし、職人さんはいつまでもネチネチ言わない人がほとんどです。
2.3 一人前の鳶職人になれると思えない(成長実感が感じられない)
このような理由で辞めていく社員もいます。
鳶職人は身につける技術の幅がとても広くかつ深いので、一人前になるまでにとても時間がかかります。
経験年数が3年ほどたった職人に『一人前になれた?』と聞いても、おそらく『いやいや全然です』と答えるのが至って普通な世界です。
僕たちが携わる建物の新築工事は工期が短いもので18ヶ月ほど、長いと36ヶ月以上になります。
工事着工から完成までに必要な鳶仕事を一通り体験するだけでも2年程度は掛かることになり、それを数回繰り返さないことには全てを身につけることはできません。
結果、一流の鳶職人になろうと思えば10年くらいやってやっとなれるかどうかという感じです。
一人前の鳶職人と呼べるレベルになるのでさえ、センスが良い人で5年くらいは掛かると思います。
『一人前になるのに5年もかかるなんてやってられない!』あなたはそう思うかも知れません。
でも考えてみてください。
半年程度やれば誰でも一人前になれるような、その程度の技術を身につけたところで、それに一体どんな価値があるのでしょう?
一人前になるのに最低5年かかるということは、それは『5年間頑張った者にしか得られないもの』であり、今日入ってきた『新人は5年経たないと追いつけない』そういう価値があるスキルということです。
鳶職人になった最初のうちは危険度の低い地味な作業から始める事が多いので、成長実感が中々感じられずそこで諦めて辞めてしまう人が多いですが、そこを乗り越えた先に『やりがいに満ちた鳶職人の楽しさを感じられる世界』があります。
1年程度で辞めていく事が本当にもったいなく、残念に思うのは僕だけではないはずです。
3. 鳶職を辞めたいと思っているあなたに伝えたい3つのこと
繰り返しになりますが、僕自身は鳶職のやりがいや楽しさを知る前に辞めてしまうことがとても勿体無く、残念なことだと思っています。
実はほんの少し考え方を変えるだけで、仕事に対する感情が変わることがあります。
3.1 続けたものだけが見ることのできる世界を体験して欲しい
長々と文章を書いてきましたが、僕があなたに一番伝えたいことがこれです。
今は毎日現場に行くのが辛くて、辞めたいと思っているだろうけど、なんとか踏みとどまって仕事を続けて『鳶職人のやりがいと楽しさに満ちた世界』をあなたにも体験して欲しいのです!!!!!
様々な経験を積んで一流と呼ばれるレベルになった職人さんたちは本当に仕事を楽しんでいます。
そして自分の仕事にプライドを持ち、やりがいに満ちた毎日を送っています。
超高層ビルで敷地の制約などが大きい困難な現場で鉄骨建て方なんてやろうものなら、行き帰りの車の中でも、昼休みでもずっと『どうすればより早く安全に建て方が進められるか』をみんなでワイワイずっと喋ってます。
鳶職という職業は全ての職業の中でも『楽しんで仕事をしている率』で言うと相当上位にあるんじゃなかと思うくらいです(そんな調査はないのでエビデンスはありませんが)
僕は現場を離れて20年以上になりますが、今でも現場で楽しそうに仕事をしている社員たちを見ると『俺もあの中に混ざって一緒に現場で仕事をしたいなぁ』と思うくらいです。
『足手まといだから止めてくれ!』って言われると思いますが笑
人間は環境に適応できる能力が高いので、今『辛い』と思えることにも絶対に慣れるし、数年後に振り返ったら『なんであんなに辞めたいと思ったんだろう』って思える日があなたにもきっとくるはずです。.
3.2 一人前になるのに時間がかかるからこそ価値がある
これはめちゃくちゃ大事な考え方なのであらためてもう一度伝えます。
- 食べるのに1時間以上並ぶ必要がある飲食店
- 数量限定で抽選に当たらないと買えない商品
- 合格率の低い資格試験、などなど
手に入れるのに時間や手間が掛かるものほど価値が高い(と感じる)とみなさん経験から良く知っているはずです。
一方で、自身の経験やスキルとなると手っ取り早く身に付く方が良いことだと思ってしまう(コスパだのタイパだのを間違った解釈で使っている)
大いなる矛盾を感じるのは僕だけでしょうか?
鳶職人はスキルを身につけるのにとても時間とパワーがいる職業です。
だからこそ価値が高いのだと僕は思います。
一流の鳶職人になれば日本中(いや世界中)どこに行っても良い条件で雇用してもらい働く事ができます。
また、多くの人の目標である年収1000万円以上を得ることも学歴に関係なく達成できる可能性がある職業です。(鳶職人が年収1000万円以上を達成する方法はこちらの記事を参考にしてください)
一人前になる過程では(特に始めたばかりの頃は)地味な作業を繰り返し行うことも多いですが、それを乗り越えて仕事を覚え、自分でできる事が増えることに比例して仕事の楽しさややりがいが増してくることは僕が保証します。
今感じている『辛い』という気持ち、『辞めたい』という気持ちを冷静に振り返って『これを乗り越えれば絶対に楽しさを感じられる』と信じて新たな気持ちで仕事に取り組んでみて欲しいです。
3.3 転職を繰り返しても同じ問題は続く
先述の通り、どんな仕事であっても体験する前に全てのイメージを100%正しく持つことは不可能なので『こんな仕事だとは思わなかった(思っていたのと違う)』は転職した先でもほぼ100%起こります。
また人間関係に起因する問題も、自分と合わない嫌な奴はどこに行ったっているので(今まで学校でもアルバイト先でも嫌な奴はいたでしょ?)新しい職場でも起こる可能性は高いです。
なのでこれも転職では問題解決しない場合がほとんどです。
極論ですが、問題(と自分が感じている事象)を会社や先輩(もっと言うと社会や時代などもそう)など自分以外のもののせいだと考えている限り、同じような問題が次の職場でも起こる可能性は高いと言うことです。
いま様々な理由で『仕事が辛い』『辞めたい』と思っているかも知れませんが、その理由が本当に環境を変えることで解決する問題なのかどうかはよくよく考えてみて欲しいと強く思います。
4. 鳶職を辞める時に考えたいこと
それでも残念ながら辞めるということを決断したあなたに向けて最後に3つお伝えします。
4.1 辞める時はキッパリと『辞める』と伝えた方がいい
インターネットへの書き込みなどで『どういう辞め方をすれば良いかわからない』というような悩み相談を見かけます。
- 辞め方のテクニックを知りたい
- 怒られずに辞めたい
- 可能な限り穏便に辞めたい
という思いからの書き込みだと想像します。
まず大前提としてお伝えしたいのは、普通の社長(経営者)であれば社員(特に新入社員)が辞める可能性があるということなど当然想定しています。
なので、あなたが退職の意向を伝えたところで慌てふためいたり、怒り狂うなどということは絶対にありません。
ネットで仕入れた浅はかなテクニックや『退職代行』のような変なサービスを安易に頼らず、辞めたいという意思と退職理由を正直に伝えるのが退職する上では一番良い方法になります。
また社内に相談しやすい同僚や先輩がいれば、その人に相談するのもおすすめです(相談はなるべく早い段階でできるとなお良いですね)
きっと社長との間を取り持ってくれる役割をしてくれるはずです。
4.2 引き止められるのは求められているということ
社長は新入社員が一定程度の確率で退職していくことは想定済みですが、それでも必ずあなたを引き止めると思います。
万が一引き止めないようであれば、それはあなたには会社に居て欲しくないという表れでもあり、逆に由々しき事態だと言えます。
ちなみにうちの会社には在籍5年以上の社員の退職は引き止めないというルールがあります。
5年間働けば仕事のことも会社のこともある程度は分かっているでしょう。
その上で退職の意思を固めているということなので、その意思は尊重しようという考えです。
反対に5年以内であれば全力で退職を思いとどまるように説得します(説得が実を結ぶ可能性は残念ながらめちゃくちゃ低いですが、、、)
これは何度も書いている通り、この仕事の本当の楽しさややりがいを知る前に、一時の感情で辞めてしまうのは本人にとっても(もちろん会社にとっても)勿体無いし、大きな損失だと思うからです。
ですので、引き止められるのはある意味当たり前であり、その話をよく聞いた上でそれでも気持ちが変わらないようであれば退職をすれば良いと思います。
4.3 社会人として恥ずかしくない辞め方をする
社長や先輩などにもう少し続けるよう説得されて、それでもなお辞める気持ちに変化がなければ、それは仕方がないことなので退職をすれば良いと思います。
その際に大事なことは、社会人として恥ずかしくない辞め方をするということです。
突然音信不通になるとか、会社への恨みつらみや悪口を言い残して辞めていっても何一つ良いことなどありません。
円満に惜しまれながら辞めていけば、例えば次の職業についた時などにお客様として関わりを持っていただくことなども考えられます。
世の中は広いようで案外狭いものです。
後々辞めていった会社の人たちとどんな形で関わりを持つようになるかなど分かりません。
会社によっては新入社員の入社判断をする際に、前の会社に連絡をして人物像をリサーチすることなどもあります。
辞めるのであれば惜しまれながら綺麗に辞める。
社会人の先輩として、僕からの最後のささやかなアドバイスです。
さいごに
今の家に引っ越しをして5回目の春(4年半)を迎えました。
今年の春は庭の木々の成長が今までとは比べ物にならないくらいすごい勢いです。
玄関前の桜の木は初めて花を付けましたし、テラス横のジュンベリーの木もジャムを作れるくらいに沢山の果実をつけました。
ここまでの4年半の間、僕たちには見えないところでしっかりと根を伸ばし、潮風などの環境にも適応すべく頑張っていたのでしょう。
おじさんくさい表現ですが『石の上にも3年』とはよく言ったもので、おそらく人間も大きな成果をあげようと思えば、地中にしっかり根を張り、環境に適応する努力を一定期間続けることが必要なのだと、庭の木々を見ながら感じました。
あなたがしっかりと根を張る会社(職業)が見つかることを願っています。
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